「鍼灸臨床における新医療システムの開発―実用化を目指して」 CVG大阪で優秀賞を受賞~代表の西岡さんにインタビュー

 大阪医療技術学園専門学校の学生、西岡利子・江見木綿子・大辻早紀・田中昌平・矢田部雄史・山上安司・山口修平さんの7人のチーム(東洋医療技術教員養成学科)が、「第16回キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)大阪」において、テクノロジー部門の優秀賞を受賞しました。CVG大阪は関西の学生による新事業提案コンテストで、今回は大学を中心に32校、119件の応募の中から選ばれました。そこで、代表の西岡利子さんに受賞の喜び、プラン「低出力半導体レーザー鍼灸針システムの開発および鍼灸臨床の実用性」についての開発動機、苦心などを語っていただきました。


西岡さん

―CVG大阪は学生を対象にしたコンテストでは、伝統がありレベルも高い。その中で優秀賞を受賞されたわけで、まずは感想を聞かせてください。

 「開発に取り組んだこと、CVG大阪に応募したのも、チャレンジの気持ちからですが、優秀賞という大変栄誉ある賞を賜り、驚きとともに感謝の気持ちでいっぱいです。特にご指導頂きました奈良上眞先生、協力していただきました企業の方々に厚く御礼申し上げます」


―このプランを思いついたきっかけは。

 「鍼灸臨床研究の先行文献を調査していたところ、それらは経験医療に依存し、エビデンス(科学的根拠)に基づいた臨床治験が不足していることに気付きました。また、鍼灸臨床研究のランダム比較試験(RCT)におけるコントロール介入が困難な現状もあります。これらの問題は、鍼灸刺激部位を特定し、刺激量を特定することで解決出来るのではないかとグループ゚内で検討しました。メンバーのひとりが大学生時代、皮膚接触型の低出力レーザー治療による研究を行っていた経験から、その低出力レーザーが皮下組織や筋肉へ直接照射できれば、刺激部位や刺激量を正確にコントロールできるだろうとの発想が浮かびました。では、やってみようとなりました」


―開発を進める中で、問題、課題が多々あったかと思いますが。

 「果して、鍼灸針の中にレーザーを通過させることができるのだろうか?と悩み、奈良先生に相談したところ、ある医療機器メーカーが極細の注射針を保有しており、実現可能との返答を頂きました。そこで、低出力半導体レーザー鍼灸針の開発可能性の夢が広がり、問題点と解決策を検討しました。極細注射針の中にレーザーを通過させて照射するのに、何を介在すれば良いのか?グラスファイバーを使用すれば良いのではないか!ただ、グラスファイバー素材は破損の危険性があるため、皮下組織へ刺入する場合、安全な新素材が必要になります。現在もこの試作に取り組んでいます」
「鍼灸臨床研究には、エビデンスに基づいた鍼灸医療システムの構築が必要不可欠です。今回の研究開発をプランニングし、実用可能性の糸口が見つかり、非常に喜びを感じております。低出力半導体レーザー鍼灸針システムの開発に向けて、これからも様々な問題を解決しなければなりませんが、今回の受賞を励みに7人で力を合わせて頑張ります」


西岡さん

―開発過程で大学発ベンチャーや医療関連企業などと協力されていますね。

 「医療機器メーカーの開発担当の方には、学生として発想の新規性に高い評価を頂きました。そして、グラスファイバー実用性の問題、医療行為における安全性の課題など多くのご指導を頂き、実用化に向けて一緒に検討して頂いています。大学発ベンチャーの先生方からは、既存の商品を利用して、鍼灸臨床における新規医療システムの発想には、実現可能性が高いとの評価を頂きました」


―実用化に向けて、今後の取り組みは。

 「今回の研究開発は人体への医療行為ですので、ひとつひとつ慎重に問題を解決して、実用化を目指しています。しかし、私達の力量では困難です。そこで、産学連携によって各企業、各研究施設のご協力のもとで開発を継続していく予定です。東洋医療技術教員養成学科の教育の一環として、後輩達に委託し、何年かけてでも完成させたい、と思っています」



西岡さん

―開発を通じて学んだこと、後輩や他の専門学校生へのアドバイスは。

 「専門分野の知識を深めること、先行文献を調査すること、研究デザインを勉強することが大切です。それに、専門分野だけでなく、時代の社会情勢を知ることによって、時代ニーズに合った商品開発のアイデアが浮かんできます。基礎研究と実用化は、分けて検討しなければならないと考えます。実用化には事業採算、収支予測を明確にする必要があります」
「情報が無い状況から新規開発の発想は生まれません。多くのデータを収集し、根拠ある研究技法を用いて検討すると、一定の法則が明らかになります。若い新鮮で柔軟な発想、日々変化する社会情勢を展望してニーズを探り当て、後輩の皆さんには社会貢献型の研究開発を期待しています」


―西岡さんは卒業後、将来はどうされるのですか。

 「鍼灸養成校の教員として、教育に従事する希望を持っています。今回の研究開発は、学科教育における研究デザインや研究技法、医療経営学の学修が基礎になっています。将来、実学教育の観点を踏まえながら教育職に従事し、今回の研究開発も後輩へのアドバイザーとして関わっていきたいと考えています」


 指導教員の奈良上眞学科長は、今回の受賞に関して「教員養成学科の学生は、鍼灸師の免許を有しながら、多職種の実務経験を活かして、研究の発想が豊かです。学生は今回の応募に当たって、研究デザインの作成、事業計画の立案過程で実現可能性を判断します。そして、既存の素材を利用して、開発に向けて大学や企業の研究部門と連携するのは、素晴らしいことです。新規医療システムの実用化に向けて、後輩に受け継がれていくのが楽しみです」と語っています。

 
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